日本人なら知らない人はまずいない弘法大師。日本各地に弘法大師伝説がありますが、弘法大師は醍醐天皇から送られた諡号で、存命中は空海と名乗っていました。
なぜ空海なのかというと、これまた有名な話というか、弘法大師伝説となっていますが、高知県の室戸岬にある御厨人屈(みくろど)、あるいは神明窟(しんめいくつ)に籠って仏道修行をしていましたが、そこから見えるのは空と海だけだったこと、そしてその修行中に明星が口に飛び込んできて悟りを開いたことから空海と名乗ったといわれています。

実際、そこに入って外を見ると確かに空と海しか見えません。高知県の海岸から海を見ると、何も遮るものがなく、海の果てで空と交わっていますから、なるほどと納得してしまいます。坂本龍馬が海洋貿易に夢を託して海援隊を創設したのも、果てしなく広がる空と海が見える高知県の出身であることと関係があるのかもしれません。
なお、空海は中国(唐)で修行して密教の後継者となりましたが、日本に帰国するときにその教えのすべてを持ち帰ったために真言密教は日本にしかない密教になったといわれています。
それはともかく、空の景色は雄大で美しいだけでなく、さまざまな夢を抱かせてくれますね。ことに海と交わっている空は同じ青でありながら、その深さというか濃さの違いが見事な対比になっていて、それだけで芸術作品のようです。

青という色に関しても、ただひとつだけの青ではありません。碧、蒼、藍、紺碧、群青などさまざまな青があります。そこに雲の白さや波の白さが彩りを添えたら、空も海も無限の色彩を湛えているかのようです。
普段は何気なく見上げている空、そして海。今日はどんな色に見えるでしょうか。新しい色が見えてきたら、それは空海の悟りに近づいたのかもしれませんね。
文:有澤 隆
背景写真著作:Dokudami