アメリカのニューヨークには、摩天楼とも呼ばれる超高層ビルが競い合うように建っています。クライスラービルやエンパイアステートビルはそれらの代表であり、先駆けでもあります。1930年に完成したクライスラービルは319メートルで、完成当時世界一の高さを誇っていました。ところがわずか1年後の1931年には381メートルのエンパイアステートビルが完成し世界一の座を明け渡すことになりました。
これらのビルは1910年代から30年代にかけてヨーロッパやアメリカで流行した、アールデコと呼ばれる様式を代表する建築物です。アールデコは19世紀の終わりごろから世界中を席巻したアール・ヌーボーの、あまりに装飾的なことに反発して誕生したといわれていますが、1920年ごろに最盛期を迎えました。アール・ヌーボーは19世紀末から20世紀にかけてヨーロッパを中心に流行した美術運動で、その様式は工芸品から建築まで多岐にわたっています。
アールデコが台頭してきた背景には工業デザインの普及があるといわれていますが、アール・デコは華美な装飾を排し、幾何学的な表現で放射線に描かれる直線、色による対比など、機能的・実用的なデザインとして世界中の都市で流行しました。
ニューヨークの摩天楼のほかには、マイアミの街並みもアールデコ様式の街として有名です。アメリカ以外ではメキシコシティの街並みや、ブラジルのリオデジャネイロにあるセントラル・ド・ブラジル駅(リオデジャネイロ中央駅と呼ばれることもあります)などがアールデコの建築物として知られています。
また、帝国ホテルや自由学園明日館などの設計で日本の建築にも多大な影響を与えたフランク・ロイド・ライトの建築もアールデコの流れに位置づけられることがあるようです。ヨーロッパとロシアを結ぶ北急行などのポスターを手掛けたアドルフ・ムーロン・カッサンドルはアールデコを代表するデザイナーです。探してみると、アールデコは様々なところに生き続けていることがわかります。
文:有澤 隆