ルーブル美術館がある辺りのセーヌ川沿いに、緑色の屋台というか、箱を並べたような小さな店が並んでいます。ブキニスト(bouquiniste)と呼ばれる古本屋です。古本屋街としては日本の神田神保町の古本屋街が世界的にも規模が大きく有名ですが、観光名所ということではブキニストのほう上かもしれません。
とはいっても、フランス語で本のことはリーブル(livre)であり、古本はリーブルドカッション(livre d’occasion)です。ブキニストは古本屋ではあっても、セーヌ河岸沿いの緑の箱を並べたような古本屋を指すことになります。何ともややこしい話ですが、ブキニストはブーキャン(bouquin)から生まれた言葉で、ブーキャンとはその昔「価値のない本」を意味する言葉から派生したということのようです。
だからといってブキニストは価値のない本を売っているわけではありません。その歴史は16世紀にまで遡ることができます。神田神保町の古書店街が形成されてきたのは明治10年代になってからですから、その歴史は比べものになりませんね。
さらに面白いのは、現在のブキニストは古本屋とは名ばかりで、観光写真やポスターをはじめ、観光客向けのグッズが所狭しと並べられています。店の人はといえば、あまり商売熱心とはいえないようで、雑誌や新聞を読んだり、スマホをいじったりと、のんびり構えていることが多いとか。にもかかわらず、ブキニストの箱には番号が振られていて、出店するにはパリ市から認可を得なければなりません。それゆえ店の人はのんびりしているようでいて、ブキニストにかなりの誇りを持っているようです。
そもそもパリは下町文化が花開いたといってもいいようなところですから、そんな目で見ればブキニストもまた、パリに欠かせない風物詩なのかもしれません。誰もが知っている観光名所とはひと味違った趣が漂っていそうです。